From Data Hunt to Data Vault: A Closed-Chain Solution for Antitrust Compliance
1月にハワイで開催されたThe IAFOR International Conference on Arts & Humanities in Hawaii(IICAH 2026)で、「From Data Hunt to Data Vault: A Closed-Chain Solution for Antitrust Compliance」というタイトルの報告をしました。査読を経て採択された報告で、法学以外の分野の研究者も多く参加する学際的な会議です。
出発点は、NBL1252号に書いた「独占禁止法とブロックチェーンの連関性」です。あの論文は技術の思想や背景を紹介する抽象的な問題提起にとどめていたので、今回は一歩進めて、具体的な制度の提案として組み立てました。
問題意識は、独禁法の執行が構造的に「後追い」になっていることです。関係するデータは事業者の手元にあり、当局は違反が疑われてから証拠を探し回ること(data hunt)になります。情報の非対称は大きく、調査には何年もかかり、そのあいだにも市場への害は広がっていきます。
そこで報告では、ゲートキーパー的な地位にある事業者に、取引の記録を許可制のブロックチェーン(参加者を当局と対象事業者に限った閉じたネットワーク)へ前もって残させる仕組み(data vault)を提案しました。記録は後から書き換えられず、当局がいつでも中身を見られるわけではありません。正式な調査が始まるなど、法的な条件を満たしたときにだけアクセスできるように設計しています。競争者どうしのデータは互いに見えないようにし、どちらか一方だけでは記録を変えられないよう、当局と事業者の双方の承認を要する形にしました。
素材にしたのは、米国のGoogle(検索)事件の救済措置です。排他的な契約の禁止やデータ共有の義務といった救済は、命令を出した後も守られているかを継続的に確かめる必要があります。契約が登録された時点で禁止条項を自動で検出したり、データ提供の要請に期限内に応じたかを記録として残したりすることで、定期的な監査から継続的な検証へと切り替えられる、という点を示しました。義務づけの方法としては、確約や排除措置命令の条件にする方法と、課徴金減免などの誘因で参加を促す方法の二つを挙げ、ゲートキーパーから始めて段階的に広げていく道筋も示しています。
報告にあわせて、実際に動く試作もHyperledger Fabricで組みました。当局と企業3社の4組織からなるネットワークで、条件付きのアクセス制御と台帳の同期が動くことを確かめています。試作についてはProjectsページの「Complichain」で紹介しています。