Rules, Standards and Observability under Japan’s Mobile Software Competition Act

報告
Monash Warwick Alliance Digital Regulation Workshopで、施行7ヶ月のスマホ法の運用を素材に、事前規制の設計を論じる報告をしました。
Published

August 14, 2026

報告 · Monash Warwick Alliance Digital Regulation Workshop(Monash University)

忙しくて宣伝が手遅れになりましたが、8月14日にオーストラリアのモナシュ大学で開催されたMonash Warwick Alliance Digital Regulation Workshopで、「Rules, Standards and Observability under Japan’s Mobile Software Competition Act」というタイトルの報告をしました。ほかの報告者の皆さんは現地参加で、私だけがZoomでの参加でした。

このワークショップは、EUや英国などの経験を踏まえて、オーストラリアにおけるデジタル市場の事前規制(ex ante regulation)の今後を競争法の観点から考える、というものでした。オーストラリアはいままさに自前の事前規制の枠組みを設計している途中で、日本の経験をどう参照できるのかを話してほしい、というご依頼でした。

報告では、2025年12月に全面施行されたスマホ法(スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律)の、施行後約7ヶ月の運用を素材にしました。

施行後の国内の議論を眺めてみると、論争はApple・Googleの手数料の水準と算定根拠に集中しています。代替決済や外部誘導にかかる手数料が競争の経路を実質的に閉じていないか、という議論は、費用の正当化や競争者排除効果の評価といった、独禁法の事後規制で最も難しいとされてきた作業とほとんど同じ形をしています。せっかく事前規制を導入したのに、最大の論争が事後規制と同じ土俵で行われているわけです。

そこで報告では、スマホ法の義務を「事前か事後か」ではなく、ルールとして書き切れているか、遵守しているかどうかを外から観測できるか、という二つの軸で三つの類型に分けました。一つ目は、ブラウザエンジンの利用強制の禁止(8条3号)のように、ルールとして明確に書かれていて、守られているかどうかを外から確認できる義務です。二つ目は、取得データの不当利用の禁止(5条)のように、ルールとしては書かれているものの、違反が事業者の内部で完結して外形に痕跡を残さない義務です。三つ目は、手数料が関わる場面のように、事前規制の中にスタンダードとしての評価の余地が実質的に残っている義務です。

こう整理すると、事前規制がうまく機能するかどうかは、事前か事後かという二分法ではなく、個々の義務をルールとして書き切れたか、その遵守が誰にとって観測可能か、そしてスタンダードが残る領域にそれを補う情報の仕組み(遵守報告書の粒度や、手数料の根拠の開示・説明責任の配分など)が組み込まれているか、にかかっている、というのが報告の主張です。手数料の問題を事前規制から外すのではなく、分析に必要な情報を規制側に引き寄せる装置を足すべきだ、という点は、これから制度を作るオーストラリアにとっても参考になるのではないかと思っています。

事前規制の議論は、どうしても「DMA型のハードな規制か、透明性ベースの共同規制か」という規制の強さの話になりがちです。ルール/スタンダードと観測可能性という、どちらかといえば地味な設計変数に焦点をあてた点が、今回の報告の特徴です。

討議用のペーパーはまだドラフトの段階なので、ワークショップでいただいたコメントを踏まえて手を入れ、いずれ論文としてまとめたいと思います。お招きくださった主催者の先生方、ありがとうございました。